詩と写真

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詩が写す写真たち


目次


バラの花 width=

「生きている火」

そこに色しか見えないのなら

言葉なんていらないでしょう

ふれてみたいというのなら

火に焼かれてもいいですか

色のままで生きられたなら

苦しまなくてすむでしょう

死とは燃えることならば

言葉も殺していいですか

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ガラス窓にビートルズの写真

「夢をみた人」

夢の背中をみていたような

ビルの窓から世界は終わる

友と別れの缶ビール

無口になれる老木の

それはそれでも美しい

背広のにおいの夕暮れを

もう捜さないでね夢は夢

終わりを知らない晩秋も

それはそれで美しい

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ハイヒール片方ぶれ

「指先」

私が花になるときの

指先みたいな通り雨

雨に濡らした唇が

エロティシズムを口ずさむ

どこか遠くへいかないように

その指先で描かれる

花になりたい雨になりたい

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白い花に葉っぱに虫

「血」

形だけ愛を描くなら

痛みが君にわかるまで

赤い絵の具で切り裂いてください

B型色の血液は

絵にもなれず歌にもなれず

家族という名の暴力は

なまあたたかい日差しの中で

やさしく私を狂わせてゆく

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影

「この空が見えなくなると」

この空が見えなくなると
ぼくの空は闇になるのか  というと
そんなことはなかった

この街の暮らしが見えなくなると
ぼくの日々は風みたいになるのか  というと
そんなこともなかった

きみの顔が見えなくなって
その微笑みにさえ気づけなくなるのか  というと
そんなこともなかった

心の向こうが見えなくなって
失うことの明日に怯えたけれど
失うものなど何もなかった

青空も街も 愛するきみも
みんなみんな そこにいて
なにもなにも 変わってはいない

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スナックの看板光と影

「このごろ」

どこの空にいるのでしょう

遠く離れてゆくときは

影も連れていきますか

夕焼けがもしもきれいなら

心まで連れていきますか

ときどき空をみていますか?

このごろ泣いていますか?

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ミシェルさん

「涙ほのぼの」

涙ぽろぽろ出るときは

背負った荷物のその重さを

どれほどつらいと知ったとき

涙ほろほろ出るときは

何もできないことを知り

泣くより途方にくれたとき

涙ほのぼの滲むとき

そんな自分を胸に抱き

何もかもをひき受けて

生きてゆこうと決めたとき

生きてゆこうと決めたとき

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マネキン

「錆びた夜のために」

一人語りを口ずさむ

男の顔にも夜はくる

世界の色になじめずに

時間だけが錆びてゆく

あせる心をさぐる夜に

遥かな人を思うとき

笹の葉の音さらさらと

錆びた夜にも今日は七夕

「錆びた夜のために」

世界の色にはなれなくて

川のほとりに立ちつくす

影をなくした肉体が

あなたをみつけるためだけに

一人語りを口ずさむ

生まれた星をさがしても

夏の夜空はただただ広く

七夕の飾りさやさやと

錆びた夜のために星をみる

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夏の新宿ビルに太陽

「なりゆき」

金魚鉢の中にいる

あなたがいつか動きをとめて

夏の光になろうとしてる

美しすぎるなりゆきに

怖くてぼくはそこから逃げた

人の心のその中に

汚れた色を捜そうとする

弱い大人になるための

なりゆきだけの出来事が

記憶の中ではただ美しい

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紫の花拝啓ぼけ

「花の時間」

あなたが花になりたくて

光が満ちるそのときを

蝶はなぜだか知っていて

昔々のならわしを

壊して塗って壊して塗って

そして恐れることもない

あなたが花になるときに

私が蝶になるときに

世界は動く

愛も憎悪もねじふせて

世界は動く

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「ありがとうの系譜」

私からありがとうが生まれる
そんな日がたしかにあった
視覚というものが私から消えたとき
この世界のすべてが見えない悲しみとなり
けして誰にも届かないのだと
心のすみで泣いたとき
人のやさしさの手にふれた
だけど私が重すぎて
その手を硬く拒んでいた
それでもその手はやわらかく
幾度も幾度も私にふれる
変わることのないやさしさが
あきれるほど純粋で
気軽な朝の挨拶みたいに
そっとそばにいてくれた
その手にふれて救われよう
ただそれだけでいいと思えたとき
ありがとうは生まれた
冬の窓から差し込む光を
はじめてこの手で受け止めた

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